writer:319-Gさん
category : ZOIDS小説
強烈な日差しが照りつける広大な荒野。草木が群集していることも珍しいそんな場所にさらに珍しい光景があった。空は黒く覆われ、大地は緑に包まれている一角があったのだ。
「こんのぉ~!!おちろおちろ、おっちろ~!」
大空を覆うは黒いホエールキングとその腹から飛び出した大量のザバット。
「ストライク、レーザークロぉー!!」
大地にはディマンティスの大群、いずれもゾイドバトルを荒らし回る闇組織、バックドラフト団の無人ゾイドである。
「きっしょー、これじゃキリがないぜ!」
戦争でも始めんばかりに大量のゾイドが向かう先には青い装甲と大型ブースターを持ったライオン型のゾイド、
「まったく、試合を邪魔された上にこれでは割に合わないな。」
黒色の高い運動性を持ったキツネ型ゾイド、
「あ~~も~~!今日はワタシの一人勝ちだったのにィ~~~!!」
小柄なボディには不釣合いな程大量に火器を満載したゾイド…すなわち「チーム・ブリッツ」の3体が凌ぎを削っていた。
「博士ぇ!もうまわりじゅうディマンティスに囲まれちゃってます!逃げ道ありませ~ん!」
チームブリッツの司令塔、ホバーカーゴでは泣き叫ぶ助手と、
「こんなにあるんなら一つや二つ分けてくれればいいのに…ディマンティス…」
「博士ぇ~~」
意外に落ち着いている博士=チーム監督がいた。
「今日の試合は3人全部このリノンちゃんが倒したって~のにィ!どーして!?どーしてジャマしにくるワケぇ!?おかげでポイントから何から全部パーじゃないよぉ!ムカつくムカつくぅ!フルバーーーストぉ!!」
3体の中でもひときわ怒りの湧き出しているガンスナイパーから大量のミサイルが放たれる。発射された分だけキッチリ数を減らしたザバットとディマンティス。しかしその数は全体の四分の一にも満たない。
「ジェミー、こうなったらパンツァーに換装だ!リノン、バラッド、ちょっくら任せたぜ!」
背中のイオンブースターを展開し、ホバーカーゴへ向かって走るライガーゼロ=イェーガー。絶大な火力と防御力を誇るライガーゼロ=パンツァーに「換装」するためである。
「わかりましたビットさん!…あれ?この反応!」
数え切れないほどの光の明滅が表示されている画面の異変に気付くジェミー。
「ディマンティスじゃない、もっと大型のゾイド…まさか!エレファンダー!?」
周辺の情報画面には確かに大型ゾイドと思われる反応が見受けられる。しかし問題なのはその数、とても10や20では足りないのだ。
「そっちはビットたちに任せよう。ジェミー、君はレイノスで残りのザバットとディマンティスを…」
「そ、そんな~、ムリですよォ~~。」
さすがにトロスも焦りを見せはじめる。
「なんだ?新手か!?」
地平線を津波のように進んでくる黒い壁の存在に、思わず足を止めるライガーゼロ。
問題の大型ゾイド大部隊が視認できるところまで到達したのだ。
「あれは…ディバイソン!?」
声を上げるリノン。遠すぎて黒い塊にしか見えないそれをディバイソンと判別できるあたりは、さすがに元ディバイソン乗りである。
「なーんだ、エレファンダーじゃなかったのか…よかった、よかった。」
「ちっともよくありません!どーするんです!?あんな数相手に!!」
安堵の表情のトロスを怒鳴るジェミー。17門突撃砲をはじめ高い攻撃力を持つバッファロー型ゾイド、ディバイソン。それが数十体並んで前進してくる様は脅威である。
「あれだけいると何問突撃砲になるんだ?」
「何のん気なこと言ってんのよバラッド!もうすぐ射程に入れられちゃうわよ!」
世界中のディバイソンをかき集めたかのようなその大部隊は確実に接近していた。さすがに後ずさるリノンとバラッド、そしてディマンティス、ザバット…
「…ん?まさかあのディバイソン、バックドラフト団じゃないのか?」
周りの様子に気付き、後退を躊躇するシャドーフォックス。気がつけばディマンティス部隊もホエールキングも尻尾を巻いて何処かへと逃げ去って行った。
「ふぇ~終わったァ~。」
シートに寄りかかり安堵するビット。
「待て、まだ味方と決まったワケじゃない。」
「な~に言ってんの?バックドラフトじゃないって言いだしたの、バラッドじゃない?」
ディバイソンの大部隊はビットたちの目前まで来ていた。バックドラフト団でないのは間違いないようだが、もし敵であれば先の相手よりも厄介である。チームに緊張が走る。少なくともバラッドとジェミーには。
「あ~~~~~!!」
突然素っ頓狂な声をあげるビット。
「どうしたのよ、ビット?」
「あれ…」
ライガーゼロの向いている方には当然のようにディバイソン。しかしその後方にピンク色の巨大な馬車とも牛車ともつかない物がくくり付けられていた。
「あれって…まさか…」
見覚えのあるそれに、だいたい正体の察しがついたリノンたち。と、ほぼ同時に通信が入ってくる。
「あらぁ、奇遇ですわねえ、こんなところでお会いするなんて。」
モニターには予想通りの顔が微笑んでいた。縦ロールの髪に「ほんわか」といった擬音がピッタリのあったかい感じの女性である。
「お久しぶりね、わたくしのライガーちゃん♪」
お気に入りのライガーゼロに「だけ」気品漂う笑みを送る女性。
「まだあきらめてなかったのか…ハリーの姉さん。」
「…マリー…チャンプ。」
「姉さん!なんだってこんな所に!?」
「あら!ハーくんまで?奇遇ねぇ。」
曲がりなりにも命の恩人だからとブリッツの本拠地、トロスファームに招かれていたマリー・チャンプと、突然現れたマリーの弟、ハリー・チャンプ。そんな様子を少し離れたところからうかがっているブリッツの面々。
「なあ、誰かハリーに連絡したか?」
ハリーの出現にふと素朴な疑問を持つビット。
「僕はしてませんけど?他の人は…しそうにありませんよねぇ。」
渋そうな顔をするジェミー。
「アイツが呼ばなくても勝手に現れるのはいつもの事だろう?」
「ああ、それもそうだな。」
バラッドの一言で疑問は氷解し、皆は再び聞き耳を立てる。
「―そうなのよ、ハーくん。たまには気ままな一人旅もいいかなぁ、なんて思ってね。」
「じゃあなんなんだ、あの大量のディバイソンは?オレのところのゾイドを全滅させてバトルを辞めさせようとか考えてたんじゃないの?」
「ああ、あれはちょっと買物しすぎて荷物がカーゴに入りきらなくなったから新しく調達したのよ。」
とてつもなくスケールの大きいマリー。家が大金持ち、という点は同じはずの弟のハリーですら信じられないといった風である。
「ウチに送るとかせめてグスタフにするとか思わないかな…じゃあ別に家に戻れとかそういう話で来たワケじゃないんだね、姉さん?」
「そうよハーくん。確かにアレと付き合うのは賛成できないけど…」
「アレとはナニよ!!アレとは~~~!!」
マリーの前に怖い形相で飛んでくるリノン。制止しようとした3人のチームメイトを引きずっているのはご愛嬌だ。
「あら、あなたの事とは言ってないわよ?」
「しっかり指さしてるじゃないのよ~~~!!」
マリーがリノンに向けている人差し指をさらに指さすリノン。するとマリーの笑顔が陰り、小さくため息を一つ。
「ハーくん、やっぱりコレはよしなさい。」
「き~~~~~!!!」
ビットたちを振りとばすリノン。こうなるとアイアンコング以上、とは後日談である。
「落ち着いて!落ち着くんだ、りぬぉがァ!」
マリーとリノンの間に入ってきたハリーの顔面に強烈な一撃。しかし危険が迫ってもマイペースに微笑むマリー。
「こらリノン、お客さんに失礼な事をするんじゃないぞ。」
リノンがハリーの屍を踏み越えようとしていた時、リノンの父親、トロスがタイミングよく止めに入る。さすがのリノンも親の言う事は無下にできないようだ。
「あら、ちょうど親の顔が見たいと思っていたところですわ。」
「いやー、前にも同じ事を言われましたな。相変わらず手厳しい。」
「そんなささいな事まで覚えてるなんて、見かけによらず執念深い方ですのね。」
「パパぁ~~~!やっぱ止めないでよ~~~!!」
再び飛び掛ろうとするリノン。こうなるとデスザウラー級、とは後日談である。
「…まあまあ押さえなさい、リノン。気持ちはよ~くわかるがだな…」
それを察知したトロスはリノンの前に立ちふさがる。無理に笑ってはいるが、その表情はかなり引きつっている。
「そうだわ!ゾイドバトルで決着をつけるというのはどうでしょう!?わたくしももう一回くらいゾイドバトルをやってみたいと思っていましたし。」
突然提案をするマリー。
「いーわよ!望むところよ!やってやろうじゃないのよ!」
「…決着って何の決着だ?」
「…さあな、俺に訊くな。」
はじめからこれが狙いだったんじゃないのか?といわんばかりの展開ではあったがリノンはやる気満々である。ビットとバラッドが後ろで何やら話していたが、それはそれ。
「それでは賞金は通常の…10倍でどうでしょう?。それでわたくしが勝ったらそちらのライガーちゃんをいただけますか?」
「OKだ!問題ない。」
賞金のくだりあたりで即答するバラッド。
「おいこらバラッド!勝手に決めてんじゃねー!」
「大丈夫よビットぉ!Aクラスのワタシたちがこ~んな素人に負けるわけないじゃない!そーだわ!こっちが勝ったら賞金プラス、ディバイソン1体ってのはどう!?あんなにたくさんあるんだから1体くらい、ねぇ?」
多少の悶着はあったが、話はトントン拍子で決まっていく。
「ええ、かまいませんわよ。なんならライガーちゃんと交換でも…あらぁ!」
突如としてライガーゼロの元へ歩いて行くマリー。しかしその目的は別にあった。
「こっちの黒い子、初めてみるゾイドですけど…カワイイわぁ~!こちらもつけてくれません?」
ライガーゼロばかりでは飽き足らず、シャドーフォックスにまで目を輝かせるマリー。
「OK!問題なし!」
「おいビット!何勝手に決めてる!」
「最初にやったのはそっちだろーが!」
再び悶着を起こすビットとバラッド。
「話がわかる方ばかりで助かりますわ~。それではこんな粗末なところにこれ以上お邪魔するのも耐えられませんのでそろそろ失礼させていただきますわ。ハーくん、そろそろ起きなさい。」
リノンの足マットと化していたハリーを引きずるように連れていくマリー。4体のディバイソンがつながれたカーゴから降りているゴンドラが上昇して行く。
「ああ、言い忘れてましたわ。今回のバトルはわたくしとリノンさんの一騎打ちとさせていただきますから。」
「「何ぃ!!」」
カーゴに駆け寄るビットとバラッド。しかしゴンドラは既に登りきり、マリーはカーゴの中に入ってしまっていた。
「ちょ、ちょっと待てェ~!」
「さっきの話、キャンセルだ!」
「バトルの手はずはこちらで整えて連絡致しますからご心配なさらなくて結構ですわ~。では、ごきげんよ~う。」
窓から手を振りながら去っていくマリー。とディバイソンの大行列。
「い~じゃないのよ、二人ともォ!このリノンちゃんがあんな素人のお嬢様に負けるワケないじゃない!」
「しかし賞金10倍に加えてディバイソンまで!いい娘をもって幸せだよ私は。」
「へへ~!そうでしょ~パパぁ!?」
小踊りしながら喜びを表現するトロスとリノン。
「この親子…負けた場合を全然考えてない…」
「よりによってリノン一人なんて、みすみすオレのライガーをくれてやるも同然じゃないか!」
「勝負は時の運、俺だけならともかくリノン一人じゃ万が一が十分あり得るな。」
ひそかに反対意見を表明する3名。そんな3人の元に黒い影。
「ほ~う。他に言いたい事があるんなら口がきけなくなる前に言いなさいよねぇ~。」
指を鳴らしながら迫り来るリノン。この直後トロスファームに3人の断末魔の声が鳴り響いたのは言うまでもない。
次の日。
「え~と衝撃砲は、ここをこうして…どうするんでしたかしら?」
「ハ、ハイ!ココをですねえ…」
外にやたらと大量にディバイソンが並んでいるチーム・チャンプの格納庫。マリーはディバイソンの操縦をチーム・チャンプのロボット、セバスチャンに習っていた。セバスチャンはいつもより緊張している様子だ。
「なあ姉さん、ホントにリノンと闘うつもりなのか?」
コクピットの様子を覗きながらハリーが尋ねる。
「もちろんそのつもりよ。とくに問題はないでしょう?」
「けどリノンはもうAクラスのウォーリアだよ。おまけに元ディバイソン乗りときてる。姉さんが圧倒的に不利なのは分かるだろ?」
「…ハーくん、『ウサギとカメ』の話は知ってる?」
改まった口調になるマリー。
「あ、ああ。楽勝だと思って寝てたウサギが地道にゴールを目指したカメに負けたっていうアレだろ?つまり今のリノンはウサギで…」
「失礼ねハーくん。わたくしのどこがカメに見えて?」
「は?いや、だってね…」
豆鉄砲をくらったように目を点にするハリー。
「マリーお嬢様、ちょっとよろしいですか?」
「あら?どうしたの、ベンジャミン?」
チーム・チャンプのもう一人のロボット、ベンジャミンが現れた。
「ゾイドバトル連盟に何度も交渉したんですけど、この試合は承認できないそうですわ。Aクラスのウォーリアとバトル経験皆無の無名人のバトルは認められないの一点張りなんですよ。」
「まあ!そうなの?…わかりましたわ、わたくしが直接交渉に出向きましょう。ベンジャミン、御一緒してくださるかしら?」
「もちろん、喜んで御一緒させていただきますわ。」
コクピットを降りて外へ向かうマリーと付き添いのベンジャミン。
「そうだわ、ついでにゾイドのお店にも寄ってみましょう!ウサギ型のゾイドってあるのかしら?」
妙なセリフを残していくマリー。
「さっきの話だと負けるんじゃないのか?ウサギは…」
「まったく、素人は理解するのもさせるのも大変だな、ハリー。」
眉をヒクつかせるハリーと、いつもの調子に戻ったセバスチャン。あたりには妙な余韻が残っていた。
それからさらに数日後。マリーの直々の交渉により「リノンVSマリー」のバトルは正式に決定した。
何をどうしたのかは定かではないが、とにかく明日はバトル当日である。あるが、
「ふぁ~~あぁ、たいくつぅ~。」
当のリノンはリビングで寝転んで雑誌を読みながらお菓子をつまんでいた。緊張感など微塵もない。
「おいリノン、さっき格納庫にでっかい荷物が届いてたぞ。」
そんなリノンの元へやって来るビット。
「ん?ワタシに?ファンからプレゼントかなぁ?おいしー食べ物とかだといーなー♪」
うれしそうに飛び起きるリノン。
「でもコンテナだったぜ。ガンスナイパー位の。」
「コンテナぁ!?そんな大きな物をファンからプレゼントされるなんて…ワタシって罪なオ・ン・ナ♪」
「マニアックな割にリノンの正体を知らないファンだな。」
「ふん!」
「…リノンさ~ん、荷物と手紙が…あれ、ビットさん?何してるんです?」
ジェミーがリビングに行くと腹を押さえてうずくまるビットの姿があった。かなり深くめり込んでいるようで、声も出ないようだ。
「リノンさんは…格納庫かな?」
ビットのことは気にもとめず、リノンを探して格納庫へ向かうジェミー。ビットだけが取り残されたリビングは、リノンの食べ散らかしで荒れている割には静かであった。
「わ~!ミサイルよ、ミサイル!こ~んなに!」
コンテナをガンスナイパーでこじ開けたリノンは中を見て喜んでいた。
「なんだミサイルか。俺にはあまり関係ないな。」
独りつぶやいてその場を離れて行くバラッド。おこぼれに期待していたらしい。そんなバラッドとすれ違うようにやって来るジェミー。
「リノンさ~ん!これ荷物といっしょにあずかった手紙で~す!」
「え~?ファンレター?」
低姿勢のガンスナイパーから飛び降り、手紙を奪い取るリノン。
「え~となになに…『バトル用に値段の高いミサイルをご用意させていただきました。明日はお手柔らかにお願い致しますね。マリー・チャンプ』ふ~ん、けっこういいトコあるじゃない。」
「ほ~、こりゃスゴい。高そうなミサイルがこんなに。」
「博士が無駄使いばかりしてるウチのチームじゃとてもお目にかかれませんよねぇ。」
コンテナの中を覗いていたトロスとジェミー。
「あっ、パパ!これってやっぱいいミサイルなんだ?」
「カタログで見た事があるぞ。確かいつものミサイルのざっと5倍の値段だ!」
「うわ~~!スゴい高性能なんだ~!」
良し悪しを値段で決めるトロス親子であった。苦笑するジェミー。
「じゃあジェミー、ミサイルの積み替え、お願いネ!」
「え~~~!!なんでボクが!?それに仮にも対戦相手から送ってきたミサイルなんて…」
「な~によぉ!ワタシは明日のバトルに備えて色々と忙し~の!…と、ゆーワケでヨロシクぅ♪」
ジェミーに背を向け、手を振って去って行くリノン。
「どうせまたゴロゴロしてるだけのクセに…はぁ~。」
大きく肩を落とすジェミー。何を言っても無駄なことがよくわかっている彼は渋々作業に取りかかるのであった。
そして次の日、いよいよバトル当日だ。
「た~っぷり寝たし、高~いミサイルも持ったし、今日は勝つぞ~、お~!」
指定された場所に向かうホバーカーゴ。戦いを前にテンションが高いリノン。
「「はぁ…」」
「そこー!テンション低ーい!!」
白々しくため息をするビットとバラッドを怒鳴りつけるリノン。
「対戦相手からもらったミサイルなんかワナに決まってるだろーが!ソレを詰め込む
ジェミーもジェミーだ…」
「ボクはリノンさんに頼まれたからやっただけですよ。それに一応調べましたけどミサイルもちゃんと使える物みたいですから…」
「もしビットが言うようにワナだったら…どうするんだ?」
「別に…ゾイドとられるのビットさんとバラッドさんだけですし…」
理不尽に責められたジェミーは少しふてくされて答える。
「博士、今まで世話になった。俺とシャドーフォックスは今日限りたった今からチームを抜けさせてもらう。」
「ああ、待てよバラッド!逃げるんならオレとライガーも…」
「くぉら~~~!!」
そそくさと逃げようとするビットとバラッドの首根っこを捕まえてブン投げるリノン。
「このリノンちゃんが負けるとでも思ってるワケぇ!?相手は素人のお嬢サマ、おまけにディバイソンのことはよ~くわかってるワタシに負ける要素なんかな~んにもないんだからね!逃げること考えるヒマがあるんなら賞金の使い道でも考えてなさいって~の!!」
愛機ガンスナイパーに負けず劣らずの勢いで文句を連射するリノン。
「お~いみんな、着いたぞ~。」
散々な状況を知ってか知らずか、トロスが普通にそう言うと程なくホバーカーゴを停止させる。外にはチーム・チャンプ所有の大型輸送機、ホエールキングが着陸している。
「あら、わたくしを待たせるなんて、ホントはいい男なのかしら?」
高級ティーカップで紅茶をすすっていたマリーがようやくあらわれたホバーカーゴに気付いた。
「それではわたくしもゾイドに乗りこまないと。それじゃハーくん、行ってきますね。」
「あ、ああ…がんばって、姉さん…」
すたすたと格納庫に向かうマリー。かたやハリーは何やら落ち着かない様子だ。
「どうしたハリー?まさか緊張しているんじゃないだろうな?」
いつもと様子の違うハリーにカマをかけるセバスチャン。
「…いや緊張つーか、イヤな予感がしてな…」
「リノンちゃん、勝ちにいっきまーす!」
ホバーカーゴから飛び出すガンスナイパー。ウィーゼルユニットやミサイルポッドに
よってこれでもか、といわんばかりに武装されているにもかかわらず、それを感じさせない軽い足取りである。
「さァ、このリノン大先輩ちゃんがムネかしてあげるからど~んとかかってらっしゃい!なんならそのホエールキングでもいーわよん♪」
「リ…オレのリノンが、む、ムネを…」
勝手に盛り上がるハリーはさておき、ホエールキングの大きく開かれた口から一体のゾイドがあらわれる。
「ふん、どーせディバイソ…えぇ!?」
黒い巨体を想像していたリノンはわが目を疑う。ホエールキングの口から出てきたのはデイバイソンとは似ても似つかないゾイドだったのだ。
「ちょっとパパぁ!あのゾイドなんなのよ!?見た事ないわよ、あんなヤツ!」
ホバーカーゴのスクリーンに大きく表示されるリノンの怒鳴り顔。見た事のないゾイドの登場に「わずかながら」の不安を抱いたようだ。
「うーむ、…色々なパーツをよせ集めて作ったオリジナルゾイドのようだな。いやぁ、さすがは大金持ちだ。」
「関心しないでよ、も~!それにしても…」
マリーの乗った問題のゾイドが軽い足取りで駆けてくる。そんな様子を見ているリノンは半分あきれ顔。
「なんで、ウサギ…?」
頭に2本の長い耳、らしきものがなびいているショッキングピンクの特注ゾイド。その姿は特注の割にはどこか人をバカにしているようでもある。
「本日は遠いところをわざわざ来ていただきましてありがとうございます。昨日は敵に塩を送ってみましたけど、お味はいかがなものでしたか?」
対峙しているそのゾイドからマリーの通信を受けるリノン。
「そりゃあもう、お腹いっぱいいただいたわよ。一応礼は言っとくわ。」
「まあ、それはよろしかったわ。でも塩分の取りすぎは体に毒ですわよ。」
終始笑顔であるにも関わらずなぜか殺気が漂う二人のトーク。表情が全く引きつっていないマリーの方が一枚上手の印象をあたえる。
「さて、そろそろ頼んでおいたジャッジマンさんが…」
マリーがそう言った時、タイミングよく轟音が鳴り響く。ゾイドバトルの審判ロボット、ジャッジマンの乗ったジャッジカプセルが降ってきたのだ。
「ハーッハッハァ!バトルフィールドセッタァープ!!コレヨリマリーチャンプサマプロデューストクベツジアイ、『ハーレーラビット、ヴァーサス、ガンスナイパー』
ヲトリシキラセテイタダク、ダークジャッジマンサマダァ~~!」
「だ、ダークジャッジマン!?なんで?どーして!?」
マリー以外は全員驚いていた。公式戦と思っていたところにバックドラフト団の闇バトルに現れるダークジャッジマンの黒いカプセルが落ちてきたからだ。
「あら?どうかしまして?みなさん。」
事の重大さを理解できていないマリーは小首をかしげる。
「ねーさん!!もしかしてバックドラフト団に審判頼んだのかぁ!?」
「あらハーくんも知ってるの?お金さえ出せばジャッジマンくらい貸してあげるって親切なお方がいらしたから、すぐにお願いしちゃったわ♪」
頭をかかえるハリー。イヤな予感ほどよく当たる、と心でつぶやく。
「バトルモード!トクニナーァシ!!レディーファァイッ!!!」
細かい事はうやむやにしたまま試合が開始される。バトルをするリノンすら事態のややこしさに少し困惑していた。が、それも一瞬のこと。
「まあいいわ!要は勝てばいーんでしょ!」
いつもの調子に戻って直進するリノンのガンスナイパー。
「うふふ、値段の高いゾイドによる値段の高いミサイル攻撃、勝てますかしら?」
マリーが特注で造らせたウサギ型ゾイド、ハーレーラビットが超長距離から大量のミサイルを放つ。様々な放物線を描く白い煙はやがてガンスナイパーめがけて収束を始める。ろくに標準も合わせていないにもかかわらず、である。
「その程度の数じゃヘタな鉄砲は当たらないわよ!」
あってないようなミサイルの隙間をかいくぐって突き進むガンスナイパー。Aクラス
のウォーリアらしい素人ばなれした動きで確実に距離を詰めていく。
「へー、けっこうやるなぁリノンのヤツ。」
ホバーカーゴでバトルを観戦していたビットも幸先のよい展開に少し不安を忘れていた。旅行バッグに荷物をつめるのも忘れるほどに。
「とんでもないゾイドじゃなくてよかったですねぇ。防御力も低そうだし、このまま射程距離に入って一斉射撃すればおしまいですよ、きっと。」
ジェミーもまたリノンの勝利に確信を持ちつつあった。未知のゾイドとはいえ予想していたディバイソンよりはるかに小柄で火力が低いとなれば勝率は当初を上回って当然である。
「まだまだ青いな二人とも。何が起こるか分からないのがゾイドバトルの醍醐味だぞ。」
トロスが鼻で笑いながら知った風に言う。ビットとジェミーは少しあきれ顔だがバラッドは相づちをうつ。
「確かに。ダークジャッジマンが出てきている以上、バックドラフトの連中が出てくる可能性はあるな。」
「そ、そうか、ありうるよなぁ…」
再び荷造りを始めるビット。
「こんなに撃っても当たらないなんて…不良品かしら?」
一方、「ド」がつくほどの素人であるマリーは全く移動せずにひたすらトリガーを連打していた。
「あら?」
発射するべきものがなくなり、空しいカチカチ音しか出さなくなったトリガーに気付いたマリー。
「ハーく~ん、ミサイルを補充しますから準備しておいてね~。」
後方で待機しているホエールキングに向かってゆっくり走り出すハーレーラビット。
「ねえさん!なにバカ言ってるんだよ!リノンはもうそこまで来てるってのに背中向けてどーすんだよ!」
キッチリ180度向きを変えたマリーはリノンに対し完全に背中を向けている。無防備な上に当のマリーは全く後方を警戒していないのだからタチが悪い。
「スキありィ!てゆーかどのスキ狙うか迷っちゃうわネ!」
当然と言えば当然だが、素人に情けをかけるつもりなど全くないリノンは定石通りにターゲットをロックオンする。たとえマリーがAクラスのウォーリアでも避けようのない状態となる。
「これでジ・エンドよ!ウィーゼルユニット!フルバーーストぉ!!」
リノンの叫び声とともにミサイルやガトリング砲の豪雨が容赦なく降り注ぐ。
「ふふっ♪」
瞬間、気付いてすらいないと思っていたマリーが振り向いて笑った、ように思えたリノン。ただの気のせいだと思い直したちょうどその時、
「…え?え!?えぇ~~~!!」
なんとリノンの放ったミサイル全てが自然とも強引ともつかない軌道を描いてガンスナイパーに向かってきたのである。咄嗟にガトリング砲で迎撃を試みるが、フルバースト直後の残弾では全てを落としきれない。さっきの笑みは気のせいではなかった、と考え直すに充分すぎる事態である。
「あンの女ギツネぇ~~~!やっぱりミサイルに細工してたのね~~~!!」
「「「やっぱり…?」」」
ビット、バラット、ジェミーが完璧にタイミングを揃えて呟いた。
「さすがだわ~。値段の高いミサイルだと撃った本人でも正確に狙うのね~。」
リノンが怒りの形相でミサイルをかいくぐっているころ、その様子を鑑賞しながらしばしのティータイムを満喫するマリー。微笑む姿が逆に怖さを感じさせる。値段が高いのは伊達ではないようで、マリーがこうして弾薬を補給している今でもリノンは自分の撃ったミサイルに追われていた。
「てゆーかさ、なんで最初からあれと同じミサイル使わなかったワケ?」
ハリーがそんな疑問を持っていた。今リノンを追っているミサイルが序盤でマリーが乱発していたミサイルとはくらべものにならないホーミング性能を持っているのは言うまでもない。
「だってハーくん、自分の弾で負けるウォーリアなんて最高に無様じゃない?」
屈託のない笑顔で当然のように答えるマリー。ハリーの背筋を凍らせる魔性の笑顔であった。
「博士、解析終わりました。」
一方、ホバーカーゴではジェミーがフルバースト直後のハーレーラビットのデータを洗っていた。
「装甲は衝撃吸収式の多重構造、しかも表面に対ビーム用コーティングがされてます。」
「こりゃスゴいな!シールドなしであれだけガトリング砲やビームマシンガンをくらって平気とは…いや、さすが金持ちのゾイドだ!」
「関心しないで下さいよぉ。どうするんですか?」
「なーに、リノンならなんとかするさ。なにしろ私の娘、だからな!は~っはっはァ!」
モニターを見上げながら高笑いするトロス。モニターに写っている全力で逃げるガンスナイパーが目に入っているのかどうかは定かではない。
「だから心配なんじゃないですか…」
「オイコラキサマー!マリーオジョウサマノミサイルニアタッテクタバッテアゲルクライデキンノカー!!」
「うるさい!だまれー!!」
リノンがミサイルに追われてかれこれ十分、時々ビームマシンガンで撃ち落そうと試みるが事態は好転しないまま。そんな心身ともに疲労でいっぱいのリノンにさらにダークジャッジマンが追い討ちをかける。
「アー、ツイデニイットクガ、ホキュウチュウニホエールキングヲコウゲキシタラ、ソクハンソクマケニスルカラナ!」
「るっさい!いっつもホバーカーゴ攻撃してくるアンタたちが言うな~~~!!」
ダークジャッジマンの前を往復するガンスナイパーとミサイル。
「キサマ~、ジャッジマンサマヲバカニスルトタダデハ…」
「アンタもタダじゃすまさないわよ!」
ダークジャッジマンのカプセルの前で足踏みするガンスナイパー。どうやらミサイルを引きつけてジャッジカプセルに食らわそうとしているようだ。
「オ、オイキサマ、バカナマネハ、ヨサナイカ…」
「リノンちゃん、キサマでもバカでもないも~ん♪」
直後、横方向にすっ飛ぶガンスナイパー。ダークジャッジマンめがけて飛んでくるミサイル郡!
「ォワァアアアアアアァアアアァ…ア?」
たまらず両手で防御態勢をとったダークジャッジマンであったが、ミサイルはそれを素通りしてガンスナイパーに向かって約90度方向を変えていく。
「あ~~ん!ウソだ~~~~っ!!」
再び逃避モードに入るリノン。やがてはるか遠くに消えていくガンスナイパー。
「…フウ、ヒゴロノオコナイガヨクテタスカッタ。シカシ、マリーオジョウサマニニテヨクデキタミサイルダ。モウマリーオジョウサマノカチニシチャオッカナ!?」
ガンスナイパーの背中を見つめて黄昏るダークジャッジマン。やがてはるか彼方で爆発が起こる。
「オ?ツイニアタッタカ?」
「あら…これではセバスチャンやベンジャミンが替えてくださったミサイルが無駄になってしまいますわねぇ…」
補給を終えて戦線に復帰したマリーが巻き上がった爆煙を見て少しガッカリする。
「負けてな~~い!」
「あら?」
リノンのガンスナイパーは健在だった。さっきの爆煙はミサイルがガンスナイパーに「命中」したのではなく、燃料切れで「墜落」し爆発しただけだったのだ。少々吹っ飛ばされてはいたが、今のリノンには「細かい事」であった。
「ミサイルくらい使えなくたって楽勝なんだから!むしろちょーどいいハンデよハンデ!さー覚悟なさ…ゲっ!」
リノンの少し負け惜しみが入ったセリフが言い終わる前にミサイルを乱射していたマリー。
「今度のミサイルはあなたに送った物と同じ物ですわ。存分にご賞味くださいな。」
うれしそうにトリガーを連打するマリー。
「仕方ない…強制排除!」
追加武装を全て捨て去るリノン。少しトラウマになったカンのあるリノンは避けるよりも逃げを優先したのだ。ムチャな武装のために足回りが強化されているリノンのガンスナイパーは先の倍近いスピードをマークする。
「でもリノンのヤツ、どこまで逃げる気…ぉわァ!!」
まっすぐホバーカーゴに逃げてくるリノンにアセるビット。
「パパぁ!ハッチ開いて~!それからバリアー!!」
ホバーカーゴに逃げ込んだガンスナイパー。当然大量のミサイルもそれを追って飛んでくる。
「ジェ、ジェミーくん!バリア!急いで~~~!!」
「はっ、はいぃッ!!」
デスザウラーの攻撃にも耐えるというバリアがホバーカーゴを包み込む。迫り来るミサイル!
「みなさん衝撃に備えて!…ってアレ?」
ミサイル郡はホバーカーゴを避けて素通りしてしまう。そこでトロスが手を叩く。
「なるほど、あのミサイルはガンスナイパー以外の物は眼中にないというワケだな!
?たいしたもんだ!」
「そんなコトはどーでもいーの!ジェミー、いつものミサイル持ってきてない?」
格納スペースのリノンから通信が入る。
「あるワケないでしょ!昨日予備も全部詰め替えたんですから…」
「なによソレ~!アンタも男なら『こんなこともあろうかと』とか気のきいたマネできないワケぇ~~!?いーわよ!だったらアンタのレイノスぶっつけて…」
「リ、リノンさ~ん!それはやめて下さぁ~い!!」
泣いてお願いするジェミー。普段なら明らかに冗談なところだが、今のリノンなら充分やりかねない。
「だったらどーすんのよ!?ウィーゼルユニットはさっき捨てちゃったし武器なんても~何も…」
ホバーカーゴ上部のカタパルトへ伸びるエレベータシャフトを見上げるリノン。
「…リノンさん?」
「あるじゃない!とっておきが!」
一方、ホバーカーゴの外。さっきのミサイルが目標であるガンスナイパーを探してランダム飛行しているため非常にうっとおしい。
「あらぁ…いつまで待てばいいのかしら?」
ホバーカーゴを前にガンスナイパーが出てくるのを待つマリー。
「オジョウサマ、ホバーカーゴゴトウッチャッタラドーデスカ!?」
そんなマリーをたぶらかすダークジャッジマン。
「でも、補給中に攻撃したら負けになるんじゃありませんこと?」
「ワタシガユル~ス!サア、ドーント!」
「そうなんですか、わかりましたわ。ターゲット登録解除…」
キーボードを不慣れそうな手つきで素早く叩くマリー。
「新目標、ホバーカーゴぉ!」
上空を徘徊していたミサイルが突然水を得た魚のようにまっすぐ目標にむかって飛んで行く。狙うはもちろんホバーカーゴだ。
「ジェミーくん!バリア!バリアだ~~!」
「わかってますよ博士ぇ!」
バリアを張ったホバーカーゴに降り注ぐミサイルの豪雨。対バックドラフト団用に開発された装備だけのことはあり、数の多い攻撃に対しても有効度は高い。しかし…
「博士ぇ~、バリアもうほとんど限界です~~。次来たら耐えられそうにありませ~
ん…」
見た目は小型のミサイルだが破壊力は相当高いらしかった。
「くっ!オレがシャドーフォックスで元を断ってくる!」
「ダメですよ!そんな事したら負けにされちゃいます!」
「ギャラも大事だが命も大事だ!最悪オレはそのまま逃げる!だから心配するな!」
チーム・ブリッツ全体が「値段の高いミサイル」の恐ろしさを痛感してパニくっていた。
「リノン!とっとと出てけぇ!とっておきだかなんだか知らないけど…って、ああぁ
あ!!」
一方、リノンを追い出そうと格納庫にやってきたビットはそのとんでもない「とっておき」の正体に唖然としていた。
「ちょうど今武装完了したトコよ!ちょっと重いけど充分イケるわ!」
「イケるって、お前なぁ!!」
「いーじゃない!緊急事態なんだから!とにかくハッチ開けて!」
ガンスナイパーが少しフラつきながらカタパルトに向かう。
「あ、そうだビット…いつもの、言っとく?」
「あ?ああ…主人公、だしな…」
「あらあ、結構丈夫なんですのねえ。それでは…」
各所に内臓されたミサイルポッドを展開するハーレーラビット。
「ミサイル、発射ぁ~♪」
マリーの声とともにホバーカーゴに向かうミサイルたち。
「…インストレーションシステムコール…」
絶対絶命のピンチの中、ちょっと気のないビットの声。と同時にホバーカーゴ上部カタパルトが開く。
「パンツァー…」
「バーニング!ビッグバン!!」
リノンのガンスナイパーから発射される大量のミサイル!
「あ、あらぁ…」
ホバーカーゴ上方に無数の花火があがる。マリーのミサイルをリノンのミサイルが全て相殺した証しである。
「なっ、なんだァ!?あのガンスナイパーはァ!!」
モニターにかぶりつくハリー。
「ふむ。どうやらライガーゼロ=パンツァーの換装パーツを利用して武装しているようだな。」
冷静に分析するセバスチャン。現実にガンスナイパーには超合金製の緑色のパーツが半ば強引に取りつけられていた。
「そんなムチャな…でもそんなミステリアスなところがサイコーだゼ、マイハニー!」
妙な腰つきで体をひねるハリー。理解できないといったふうなリアクションをするセバスチャンとベンジャミン。
「あら?また弾が切れちゃったわ。どうして弾のなくならないミサイルポッドがないのかしら?」
激しいミサイルの撃ち合いを展開していたマリーとリノンであったが、マリーが先に弾切れを起こす。
「よっしゃもらったー!」
残弾全てを叩きこむリノン。幾重にも連なる爆風を浴びるハーレーラビット。
「うふふっ、そんな安いミサイルでは傷もつきませんことよ。」
晴れていく爆煙の中から姿を見せるハーレーラビット。さすがに擦り傷程度はつけられているが、それでも戦闘能力は全く衰えていない。
「さすがにワタシのフルバーストに耐えられるだけのことはあるわね!でも…」
弾が無くなった割には重いパンツァーパーツを強制排除するリノン。落下するパーツ
がカタパルトデッキをボコボコにしたことをトロスパパが嘆いていたかどうかは定か
ではない。
「これならどーだぁー!!」
ホバーカーゴから飛び降りるガンスナイパー。両手でしっかり何かを引きずって一気にマリーに近づく。
「あれは…シュナイダーの…?」
「…だな。」
呆然とモニターを見ているジェミーに素っ気なく答えるバラッド。引きずっている蒼くて細長いパーツはライガーゼロの換装形態の一つ、ライガーゼロ=シュナイダーの
レーザーブレードであった。
「バスタぁーーーー!」
かすかな光と振動を発するブレードを肩あたりまで持ち上げて天高くジャンプするガ
ンスナイパー。
「スラぁーーーッシュぅ!!!」
リノンの執念とガンスナイパーの全パワーがブレード越しにマリーに伝わる。火花を発しながらブレードを拒絶するハーレーラビットの装甲。
「そんな包丁では傷ひとつ…あらぁ?」
ショッキングピンクの装甲が真紅に変わっていく。融点を越えた鉄板にはもはやブレードをくい止める力はない。ついにはブレードがガンスナイパーごと重力に従い地面に到達する。
「あら…動きませんわねぇ…不良品かしら?」
深手を負ったハーレーラビットのコクピットでマリーが呟く。冗談にしか聞こえないが、天然だ。
「さ~てジャッジマン、どっちの勝ちかなぁ?」
薄笑いでダークジャッジマンをにらむリノン。結果はきくまでもない。
「クゥー!…ウィナー、チーム…ブリッツ…」
「よろしい♪まあ楽勝だったけどね~~~。」
「「「…楽勝?」」」
バトルフィールドよりも散らかったホバーカーゴの中で3人が呟いた。
「だーーーっ!!リノンちゃん大勝利~~~!!」
ガンスナイパーのキャノピーを開いて勝利の雄叫びをあげるリノンであった。
―数日後。
「ええ!?ディバイソンがないってどーゆーコトよォ!?」
トロスファームを訪れたマリーに噛み付かんばかりのリノン。
「それが、負けた方のゾイドは全部没収するルールだったそうなんです。契約書の方にもたしかにそう書いてありましたので、全部ジャッジマンさんのところ…え~と、何でしたっけ?」
「…バックドラフト団。」
後ろのハリーがボソっと答える。
「そうそう!やはり約束を守るのはチャンプ家として当然の事ですから。」
「だったらまた新しいディバイソン用意すればいーじゃないのよ!金持ちなんでしょ!?お金もってるんでしょ!?」
「わたくしもそう思ったんですが、今はどこもディバイソンが品切れだそうなんですよ…どうしてでしょうねぇ?」
「アンタが買い占めたからでしょーがァ!!!」
平然と考えているマリーにあってないような堪忍袋の緒が切れるリノン。
「ああ、でも大きな風穴が開いたディバイソンなら近くのショップに在庫があるそうですわよ。それでよろしければ…」
「き~~~~~~!!!」
チーム・ブリッツ、チャンプの男たちが必死にリノンを押さえつける。ちなみにリノンの愛機だったディバイソンがエレファンダーに大破させられて下取りに出されたことは有名だ。
「ではわたくしはそろそろ実家に戻らなくてはなりませんのでこれで。この埋め合わせはまた今度という事で…失礼致します。」
「あァ!コラちょっとぉ!なーにが約束は守るよ!ワタシとの約束はどーするのよ~~~!!」
ふと足を止めてふり返るマリー。
「ハー君、早くいい人みつけなさいね!」
屈託のない笑顔で微笑むと再び歩いていくマリー。
「んむぅお~~~~許さない!!いいかげん離しなさいよアンタたち!バカ!エッチ!エロガッパぁ~~~~!!」
怒りが頂点をも越えた様子のリノン。
「もーダメです!ビットさんバラッドさん、ライガーとフォックスを…」
「そんなのライガーが可哀想だ!」
「そうだ、フォックスに傷がつく!」
ジェミーの提案をあっさり拒否する二人。リノンのことをどう思っているのかはわからない…いやよくわかる。
「なによみんなしてバカにして~~~!!あんな色年増のボケボケ女のドコがいーってのよ~~!!」
トロスファームじゅうに轟くリノンの叫び声。それが聞こえたかどうかは分からないが窓越しにトロスファームを見つめるマリー。
「あいかわらず騒がしい方たちですわね。…うふふっ。」
4体のハーレーラビットに引っ張られるカーゴの中、バトルの楽しさを思い出して微笑むマリー。
「もう一回くらい戦ってみようかしら?」
それがチーム・ブリッツにとって幸か不幸かはわからない。しかし意外にリノンも同じ事を考えていた。
「あンの女ギツネぇ~~~!!今度会ったら絶対ギッタンギッタンにしてやるんだからァ~~~!!!」
…再戦の日は、近い?