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writer:四葉 梢さん
category : ZOIDS小説

もう冷たい幼い手──────

幼い少女の目はもう開かない─────
そのてを握りしめているのは─────

────自分だった─────

バッ

はっと目が覚め、椅子から立ち上がる。
・・・・またこの夢か・・・・・。
顔には冷や汗がながれいた。
「ったく、あいつもしつこいなー、オレが何したっていうんだよ」
と言いながらオレはギミックとはちまきをつけた。
まだベッドで寝ているバンとルドルフを起こさないように、静かに部屋を出ていく。
そして、コマンドウルフをおいてる倉庫までゆっくりと歩いていった。
グゥゥゥウゥ・・・・・<ウルフ声
「よ、まだ早いけど、ちょっと行きたいところがあるんだよ」
と言って相棒に乗り込んだ。

「久しぶりに・・・・・会いに行くんだよ、あいつにな・・・・。」


───Ellena───

「ふぁあぁ~・・・」
孤児院の中で、目をこすり大きくあくびをする少年が一人。
目をこすって、周りを意味もなしに見渡す。
周りには同じ年代ぐらいの少年や少女達が布団をしきつめて寝ている。

「気晴らしに散歩でするかなー」
天気がいいことを確認して、その少年は部屋を出ようとした。
────が
「こ行くの?お兄ちゃん」
「ひぃっ!!ってエレナかよ・・・」
その「お兄ちゃん」と呼ばれた少年は後ろを向いて、
エレナというまだ幼い少女の方に向いた。
「エレナ脅かすなよ・・・・散歩だよ、散歩」
「え、じゃぁあたしも行く!ね、いいでしょ?」
エレナに眼をじっとみつめられ、ことわることができない「お兄ちゃん」。
「・・・・わーったよ、じゃぁ静かにしてろよ?」
「はーい」

そして、二人は孤児院から抜けて、まだ薄暗い夏の中を歩いていった。

話が少しずれるが、この兄妹は全然似ていなかった。
性格も、
容姿も、
本当に兄妹か?といいたくなるぐらいだ。
妹は少し暗い色の金髪、そして緑の眼。そして、性格は素直で優しい。
しかし兄となると、抹茶色をした髪、紫色の眼、そして性格は素直じゃなくて悲観的。
そう、これは幼きアーバインなのだ。
・・・まぁとにかく似てないのだ!!!
「なぁ、エレナ・・・」
「何?お兄ちゃん」
木の茂る道の中、やっと兄から口を出した。
「お前さ~、親とか恨まないか?」
「何で?何で恨まないといけないの?」
まるでフィーネのような性格だ。
「なんとなくだよ、
 俺らを捨てた親がなんとなくむかつかねーか?」
「別に?
 だってお母さんやお父さんも、あたし達をキライだったから捨てた、って限らないでしょ?
 きっといろんな意味があったんだよ!」
「ふん、どーだか・・・・」
──────エレナは、親の顔を知らなかった────

──────だからそんな事が言えるんだよな、お前は─────

「本当、お兄ちゃんは素直じゃないんだからさ!
 もうちょっと素直になったら~?」
「うるせーよ、
 でもな、お前だけは幸せにしてやるよ」
無表情・・・というかあんまりかわんない顔つきで言われても、
他人ならなんにも感じないだろう。
でも、エレナにはその言葉のなかには優しさが入っているのがわかった。
それは、エレナだから分かったんだろう。
ふっと、微笑むエレナ。

「本当の本当に素直じゃないね!お兄ちゃんは」

そう言われて、少し照れてしまうアーバイン。

───────でも
───────その笑顔を見れるのが、
───────あと少しだということに、
───────二人とも気付いてはいなかった

────それは急に来たんだ
────そんなこと、予想できるなら

────

「なぁ、エレナ、おまえなんか今日様子がおかしいぞ?」
まだ幼く、頬があかがかっている少女・・・自分の妹の顔をのぞきこむアーバイン。
「ううん、大丈夫、ちょっと疲れただけだから・・・・」
右手に洗濯物を入れたかごを持ち、
少しふらついた手で額の汗をエレナはほほえみながらふいた。
アーバインの前を少しふらついた様子で歩いていくエレナ。
ガシッ
エレナの細い手首を荒々しくアーバインはつかみとった。
「おい、やっぱおまえなんか様子おかしいぞ!?
 ってエレナ!!?」
そのときすでにエレナの手は冷たく、
意識が消えかかっていた。


─────伝染病だった
─────小さい子供にしかかからない、悪ければ死ぬかもしれないないという恐ろしい病気だった

バンッッッ!!!!
「医者を呼べないだと!?フザケンな!!!」
近くにある机を力一杯意味もなしに叩くアーバイン。
アーバインの前には、神父様が困った顔で立っている。

「仕方ないんだ、この修道院にはお金があまりない、
 だから医者を呼ぶことなんて・・・・」
「なっ・・・・
 どうにかできないのかよ、お前神父なんだろ!!?
 だから・・・
 だから・・・・」
混乱状態で自分でもなにを言ってるのかわからない状態だった。
いつもの冷静さなんてどこにもなかった。
「・・・・どうにもできないんだ・・・・・
 前からこれと同じ病気にかかっていた子は何人かいるんだ。
 おそらくその子たちからうつったんだろう」

────んなこと考える暇あったらワクチンを用意しろよ
────だいたい、前からそんなやつらがいるんだったら早くいえよ
────とにかく、その神父がうざったらしかった

────そう思うのは不自然なことか?
────でも、今は・・・・・

「・・・・・医者を呼んでくる」
「は?って待ちなさい、アーバイン!!?」
村の医者を呼びに全速力で駆けていった。
そのとき、自分の足がもっと速く動いてほしくて、たまらなかった。

そしてやっと医者の家についた
だが────
「こんだけの金でそんな大勢の人数は見てやれないな。
 ほらさっさと帰った!」
ドンッ
コロコロコロ・・・
医者の家の前でつきとばされ、地面を滑るアーバイン。
それともに、10枚ほどの金が地面に転がった。
「くそっ・・・・このくそやろう(医者)が・・・・」
そう言ってお金を拾うと、またかけだした。
次は隣の村に電話をするつもりなのだ。
「おい、おばさん!!電話かしてくれねーか!?
 隣の村までかけたいんだけど・・・・・・」
近くにいるおばさんにそう頼んだ、だが・・・・
「はぁ?あんた孤児だろ?
 あんたみたいなやつに電話なんかかす必要なんかないね!」
そう言って、すたすたと歩いていってしまった。
「くそっ・・・・」
手に汗がにじむ。
そしてまた、走り出した。
自分の足で隣の村まで行くつもりなのだ。
ものすごい無茶なことだとわかっていても、それをやめるつもりは全くなかった。
隣の村なら、協力してくれると思ったからだ。
孤児だと、知らないから・・・・

隣の村の医者は、快くその診療を引き受けてくれた。
優しい・・・というかふつうのひとだったのだ。
でも、医者なんか呼ばない方がよかったのかもしれない・・・・。
「あと2,3日でワクチンを用意しないと、
 ・・・・命を落としかねませんね・・・・。」
目の前が真っ暗になった。
─────ワクチンを用意しないとみんなが死ぬ?
─────みんなや、エレナが死ぬのか?

─────絶望的だった─────

「君は・・・あの金髪の子のお兄さんかい?」
その医者が話しかけてきた。
金髪の・・・・あぁ、エレナのことか・・・。
軽くうなずくアーバイン。
「行ってあげなさい、君を呼んでいましたよ」
少し沈黙が続き、ゆっくりとその部屋まで歩いていった。
・・・バタン
部屋のいくつものベッドには、たくさんの子供たちがうなされていて、そのまわりをシスターたちが看病をしていた。
エレナは、部屋の奥で寝ていた。
ゆっくりとそこまで歩いて行った。
「・・・お兄ちゃん・・・・」
なぜかわからないけれど、胸が痛んだ。
「エレナ、俺はここにいるぜ」
と、ベッドのそばのいすに座り、優しく声をかけてあげるアーバイン。
「・・お兄ちゃん・・・
 私、死ぬの?」
予想もしない言葉だった。
「んなわけねーだろ、
 お前は俺が絶対に幸せにしてやる、前にそうやくそくしただろ?」
「そうだったね・・・・
 お兄ちゃんも素直になったほうがい・・よ・・・」
言葉が、少しとぎれとぎれになってきた。
「うるせぇーよ、
 俺はいつだって素直だ」
「また素直じゃないんだからさ・・・」
そういうと、エレナはゆっくりと目を閉じ、再び眠りに入った。
そのやすらかな寝顔を見て、アーバインはほっとした。
そうだよな、エレナが死ぬわけなんてねーよな・・・・
バタン・・・・
部屋を出て、修道院の前にでた。
「俺って馬鹿だよな・・・
 エレナが死ぬなんて、何で考えてしまったんだろう・・・。」
頭を押さえ、汗をふき取る。
そして上を見上げた。
夜空は満点の星空だった。
そんな風にほっとしているのもつかのま、修道院が騒がしいのに気がついた。
はっとして中にはいると、中ではシスターや医者たちがばたばたとなにかの用意をしていた。
「おい、何かあったのか?」
近くのシスターに尋ねてみるアーバイン。
「あ・・、エレナが突然苦しみだして・・・」
「エレナが!!?」
あまりにも突然だったので、アーバインは驚きを隠せなかった。
ダダダダダダ!!
バンッ
扉を力一杯あけ、エレナのいるベッドのところまで走っていく。
「おいっ、エレナはいったいどうしたんだ!!?」
医者に大声で聞く。
周りの迷惑もなにも考えていなかった。
「静かにしなさい、周りの子どもたちに迷惑ですよ!」
「それよりエレナの容態は・・・・・」
そう聞かれ、顔の色が青ざめていく医者。
「・・・・
 もう、
 手の付け所がないんです・・・・。」


その言葉を聞いて
一瞬なにがなんだかわからなかった
──────手の付け所がない?

───────ふざけんなよ

ガシッッ
アーバインは医者のむらぐらをくかみ、いきなり怒鳴りだした。
「手の付け所がねぇだと!!?
 ふざけんなよ!!!
 てめぇ医者だろ!?」
そのどはくりょくに、医者はかなりびびった。
けど、医者はアーバインの手をにぎりその手を服からはなした。
「仕方ないんだ、
ただ、ワクチンがあったら助かるんだ」
「そのワクチンはどこにあるんだ!?」
「・・・・今、この村にも隣の私の村にも、そのまた隣の村にもワクチンはないんだ・・・
 でももうすぐで遠くの町からワクチンが届く。そのときまで待ちなさい」

アーバインはほっとした。
そのとき、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「・・・・お兄ちゃん・・・・」
ハッ
エレナが目を覚ましたのだ。
すぐにえれなの元に走っていくアーバイン。
「エレナ、俺だ!
 もう大丈夫だ、
 もうすぐでワクチンが届く、だからそれまでがんばれ!!」
「お・・・にいちゃ・・・ん・・・・わたし・・・・たすか・・るよね・・・・・わ・・・たし・・・」
「もうしゃべるなエレナ!
 体力を消費してしまうぞ!」
そう言い、えれなの手を握った。
そのときぞくっとした。
手が、
ものすごく冷たかったのだ。
「ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・」
ものすごい息切れと、汗がでていた。
「おい!
まだワクチンは届かないのか!?」
暗い部屋のかに、アーバインの声が響く。
「くそっ、エレナしっかりしろ、エレナ!!」
手を今まで以上に堅く握るアーバイン。
「お兄ちゃん・・・
 お兄ちゃん・・・
 お兄ちゃん・・・・」
息切れがさっきより早くなる。
そして・・・・・
「おにい・・・ちゃ・・・・・ 
 ・・・・・・」
そして、エレナはゆっくりと目を閉じた。
「エレナ・・?
 エレナ・・・目を開けろよ・・・・・」
そのとき、アーバインの脳に、今までのエレナとの思い出がよみがえってきた。

─────お兄ちゃんったらさ、すなおじゃないんだから!
エレナのその言葉が脳をよぎった

─────これは、俺の素直な気持ちだよ
目から、涙があふれ出てきた。

「エレナ・・・・
 
 エレナァーーーーーーーーー!!!!!」

暗い部屋の中に、
まだ幼い、冷たくなった手をにぎる少年が一人。
それは、まぎれもなく自分だった。



昔から変わらない風景だった。
修道院の近くに、相棒のコマンドウルフをおき、ある場所まで歩いていった。
その「ある」場所とは、墓場だ
今でも「あいつ」が眠っている場所だ。
広い広場に、十字架が行儀よく並んでいた。
周りには青々とした木々が生えており、木漏れ日がまぶしかった。

「ここにも久しぶりに来たなぁ・・・・」
そう言うと、足下の石版を見て、その石版のほこりを払い落としてやった。
───Ellena────
そうかいてあった。
それを見てふっとほほえむアーバイン。
「お前俺の夢にですぎなんだよ、
 
 でも・・・・結構うれしかったりするんだぜ・・・・」
というと、いつもは見せない優しい笑みを見せた。

────お前だけは俺が幸せにしてやるから─────


     ごめんな、約束が果たせなくて・・・・・・・
 

─────でもいつか、きっと、果たしてやるから・・・・・

      いつか・・・・な────────

空には、優しい風が吹いていた。




END