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writer:しろさん
category : ZOIDS小説

   どうして
あたりまえのように 満たされて
彼の隣に自分はいるんだろう?

一対をなす乙女は記憶を失い自分は何もかも見失い
過去も役目も溶けるように揮発するように消えて無くなって
空、が。
何かの液体みたいにゆらゆら機体のなかでゆれてた
偽りを弾く瞳を持つ彼
突風の無邪気さで硝子箱を破るまで

かつて何か別のものが占めていたはずの場所に
今は 今の世の光と風だけをつめて
どんな混迷も 彼の引力で
光速でうしろに置き去りにして
けれど
生きる意志あふれるこの世界で
託されたものが確かにここでも自分の中で息づいているのがわかる
自分は何かを引き継いでいると。
フラッシュバックする朱いヴィジョンで彼女はマイナスからの再生を強いられ
形状からして明らかに同胞と見えるモノ達は自分との交信を拒む
けれど
正直に 幸福に
踏みしめた足元から先の広がりへ とけあうこと
かかわっていくことを
彼女も選んだのだから
あっけらかんと 逞しく
嘘を通さない瞳を持つ彼の
傍にいようと選んだのだから
だから今は
彼が望むだけの力を
彼女が願うだけの奇跡を

たったひとつの呼び声が
気流に飛び乗る合図になる
「いくぞジーク!」

   
   消エナイためニ
どうして
生身の冷たい機体で生きて
彼の隣に自分はいるのだろう?
何も持たない殻だけの自分は
何も持たない骨だけの彼と出会った
過去を喰らい尽くされた者同士が邂逅し
虚無のあぎとの第一歯となって戦場を駆け抜ける
彼は気付いているだろうか
自分達が偶然噛み合ってしまった歯車
人が天に背いて こんなにも血を欲していなかったならば
めぐり逢うはずもなかった
刃と柄であることを
鞘も鍔もない一振りの剣として顕現し
女神ならざるものの手に握られていることを
不自然なこの存在が自然に戦う世界
すでに誰の赦しも得られない・・・・

彼を保護する黙契は
失われて 取り戻せない空洞を
砂漠の狂おしさが吹きぬけるままにして
うつろな闇が
それ自体“カタチ”をなすほどに育つをただ眼を細めて
責めるだろうか 責められるだろうか
今はただ
退化してゆく頬と掌とやわらかな指先と
鋭敏になってゆく爪と牙とそして。
たったひとつの呟きが
震える大気に熱を含ませる
「来い、シャドー」