writer:雷獣シュ-太さん
category : ZOIDS小説
今、こうしてここに居ることが信じられないほど、あなたは遠い存在でしたね。
初めてあなたを見たのは、私が士官学校の一期生のときでした。
とても美しく晴れた日で、痛いくらいの陽射がさして。
あなたが消えてしまうのではないかと心配だったと言ったら、あなたは笑うかしら?
強い光の中に居たあなたは透き通るように白く、美しく。
わたしは・・・・・・
幻覚を見たのかと思ってしまったほど。ふふふ、可笑しいでしょう?
あなたが高官だと知ったのはだいぶ後になってからのことだけれど
私はそのときからあなたがとても遠くにいる人だってなんとなく感じていたのです。
この想いはけして通じないんだって、判っていたんです。
私はあなたを見ていたけれど、あなたに私は見えないんですものね。
あなたが私兵を募っているという噂を聞いたのは、それから何年か経ってからのこと。
私は志願しました。
あなたを、もっと近くで見ていたかったから。
あなたに、私を見てほしかったから。
もちろん、あなたが必要としているのは年端のいかない小娘なんかではなく腕のたつ兵士だということはよく判っていたわ。
だから私は強くなろうとした。
ゾイド乗りとして、軍人として。
そうすることであなたが私を見ててくれるのなら、私にとってそのための訓練はすこしも苦ではありませんでした。
・・・・・・いえ、
あなたのことを想っているからこそ、いちばん近くであなたを守ることのできるここに来たときには本当に嬉しかった。
あなたが私を信じてくれたのだと判って嬉しかった。
あなたが私を見ていてくれたのだと判って嬉しかった。
だけど・・・
どうしてなのでしょうね、時々私の中で何かが動き出すのです。
それは壊れかけの玩具のように、ふと思い出したように動くのです。
カタカタと音をたて、時に速く、時に遅く。
歯車が軋めば、水が・・・
ええ、そう。
涙があふれる日があるのは、なぜなのでしょうね。
私はまだ淡い希望を抱いているというのですか?
美しく着飾ったご婦人方と光の中でにこやかに話されるあなた。
砂埃と硝煙の匂いに塗れた一介の軍人は、それをただ見守っているだけ。
「どんな話をされているのかしら」なんて、けして思ってはいけないこと。
私はただの機械なのだから。
あなたを守るという情報のみ組み込まれた、機械を動かす機械なのだから。
そして私は、すすんでその機械になったのだから。
あなたの信頼を得るために、あなたの眼差しを得るために。
感情を、殺さなくてはいけませんね。
こんなざまではあなたを守りきることなんてできませんものね。
機械に感情は要りませんものね。
・・・・・・それでも・・・・・・
それでもわたしは
あなたのことが、すきなのです。