HOME > ZOIDS > 『自我境界線、絶対死守』

writter:Fさん
category : ZOIDS小説

「じゃあ、あたし達は買い物に行ってくるから留守は頼んだよ?」
と、宿屋の2階の部屋を陣どるなりムンベイは言った。
ベッドに腰掛けていたアーバインは軽く手をあげてそれに答え、フィーネは「うん。」と頷く。
階下では、もうかなり前から鳴り始めた腹を抱えてバンが大騒ぎしていた。
「ムンベーイ!何、やってんだよー!早くしないと先に行っちまうからなあ!」
「今、行くからお待ちよ、バン!ったく、早いトコ何か食わせないとうるさいったらありゃしないよ。」
最初のセリフだけを大声で叫んで
ムンベイは戸に手をかけながら苦笑した。
泣く子と何とかには勝てぬ。今のバンはまさにそんな感じだ。町へ入るずっと前から腹が減ったと、うるさかったのだ。部屋を出かけた所で、ムンベイが思い出したように振り返る。
「ああ、そうだ。フィーネ。シャワーでも浴びて、さっぱりしときな。一人で入れるだろ?」
「は~い。」
と、フィーネ、素直に返事。
「じゃあ、行って来るよ。」
部屋を出ていったムンベイがバンにせかされているらしい。
それがアーバイン達の耳にも入る。うるさいヤツだ、とアーバインが呆れた顔をフィーネに向けた。

 と、

   なぬっ!?


アーバインの眼球、もうちょっとで落下寸前。
「!!!!!!!!!!!!ふぃ、フィーネっ!?」
ムンベイにシャワーを浴びるように言われたフィーネがアーバインの前で服を脱ぎ始めていた。
驚いて思わず立ち上がるアーバイン激しく動揺。
「バッ!!!!ナッ、中で脱げ!フィーネッ!」
「?どうして?」
「どうしてもこうしてもあるか!こんな所で服を脱ぐな!!」
フィーネはすでに脱いでしまった服を手に、キョトンとしている。シャワー室を指さすアーバインに向かって、首を傾げたその顔は要領を得ないと言った風情。
「でも、ムンベイといる時は、いつもこうしてるもの。」
「ムンベイは女だっ!いいから早く中へ入れ!じゃなきゃ服を着ろっ!」
「?・・・・・・・・変なアーバイン。」
いまいち納得できないフィーネ、あまりのアーバインの慌てぶりに、とりあえず従う。
「あいつ、一体どういう教育してんだぁ・・・?」
閉められた戸を見つめてアーバインは顔をしかめる。
そう言えば大分前、バンがフィーネに素っ裸で追いかけられ照れてヘソを曲げた事があったのを思い出した。
何も知らないフィーネの無邪気さが時々恐い。
フウッと息を吐いて、シャワー室の戸を背にして腰を下ろし気を取り直して窓の外へと目をやった。
   ・・・・・ガチャッ

 
          ! ドキッ!
「ねえ、アーバイン。」
やな予感。
「・・・・・な、なんだ!」
背後に気配を感じて振り向かずにアーバインは答える。
焦りが声に現れているアーバイン、やけに上っ調子な声だ!
足音が近づいて、真正面にフィーネが立つ。水もしたたる素っ裸だ!
「!!!!!!!」
多分、敵の奇襲を受けてもこれ以上早くは動けまいと思う程の迅速さでベッドを覆っていたシーツをアーバインの手がかっさらう。
フィーネの頭上を白いシーツが舞い上がり、次の瞬間にはそれに包まれていた。
目がシーツとアーバインを見比べている。
だがやはり、何故自分にシーツが掛けられたのかわかっていないようだった。


「・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」


見つめ合うこと、数十秒。
アーバイン気まずい沈黙。
気づかないフィーネ、クルッと背を向ける。
「アーバイン、これ取って。」
と濡れた髪にしっかりと結びついているリボンを指さす。
「・・・・ああ。」
フィーネが出てきた意図が分かって、アーバイン胸をなで下ろす。
この状況は何だか心臓に悪いっす。
もし今、ムンベイやバンが帰ってきたら何を言われるか分かったものではない。
焦る手が、濡れたリボンの結び目をとく。爆弾の時限装置を解除するような慎重さだ。
リボンが外れると、フィーネはシーツのままシャワー室へ戻っていった。
水の流れる音がする。
頭を抱えて床を睨みつける。
やけに時間がたつのが遅く感じて頼むから早く帰ってきてくれ、と祈らずにはいられなかった。
 
       ・・・・・ガチャッ

ビクッ!


とにかくモノすげえ、やな予感だ!

 「アーバイン。」

「!!!!!!こ、今度はなんだぁ!」

 アーバイン必要以上にでかい声。
手がシーツをさぐるが、先ほどフィーネが巻き付けたままシャワー室に入っていったのを思い出して狼狽。
「っく・・・・。」
先ほどと同じ立位置でフィーネがアーバインの前にやってきた。水のしたたる音がする。





 
ああ、また素っ裸だ・・・



 
 
と思うアーバインの目が宙を泳ぎまくる。
天井、窓、床、こっち、あっち、そっち。もうどこを見ていいのやら。
顔をそらして見えるモノから逃げる事はできても音は耳についてくる。
床の上に落ちていく水滴が足下に小さな水たまりを作っていた。アーバインの目がベッドの上の枕にとまる。
それをフィーネに押っつけて、アーバインは言った。
「持ってろ。」
「・・・・うん。」
安堵。
「・・・で、どうしたってんだ?まさか、背中流してくれなんて言わねぇよなぁ?」
冗談交じりに言ったつもりの言葉にフィーネが真顔で頷いた。



  
     なんだとおお!?

  

 
目をむくアーバイン。
「!!!!!!!!!!じょ、冗談だろぉ?!」
「だって、届かないんだもの。」
言いながらフィーネの手がアーバインの腕を取り、立ち上がらせようと引っ張る。
その拍子に枕が落ちた。


「あ。」
と、フィーネ。


 
・・・・・あ、



 
じゃねえ!しっかり持ってろバカ!
と叫びたいのをこらえながらアーバインはまともにフィーネの体を見てしまう。
どう対処していいか分からないソレから目をそらせるがすでに焼き付いた像がアーバインの顔を朱に染めた。
動揺に継ぐ動揺。
もう、どう(し)よう。

「!!あああ洗わなくてかまわねぇ!一日位なら腐りゃあしねぇって、なあ!」
「ダメ、ムンベイに怒られる。」
「言わなきゃわかりゃあしねえよ、おい!フィーネ!!」


ぐいぐいと引っ張られて、シャワー室へ足を踏み入れる。
「はい。」
と言って向けられた小さな背中にアーバインさらに狼狽え。せまいシャワー室で大の男、呆然と立ちつくす。

出来てない女の体は初めてだ!

何て事を考えたかどうかは定かでないが、覚悟を決めてしゃがみ込むと
「そっか。」
とフィーネが振り返った。


「?!」
「アーバインも一緒に入ればいいのよ。」




がらがらがらがらがらがら・・・・・



 
      頭、地崩れ開始。


  
「-------------------。」
あまりの無邪気さにアーバイン、もう何もかも諦めた。
バンをガキ扱いするように、同じ目でフィーネを見ればいい
と、
自分に言い聞かせて服を脱ぐ。溜息混じりに見る、目の前のフィーネの胸が


例え脹らんでいようと!どうしようと!


ああ、そうさ!ガキだ!


と思うことにした。
タオルを腰に巻いてフィーネの背を流しにかかる。やけに雑な洗い方。
ゆっくりやってたらおかしくなっちまう

思ったかどうか。
とにかくバンやムンベイに言い逃れの出来ないこのシチュエーションから早く脱出したかった。
「よし、終わりだ。出な。」
とフィーネに言ってアーバインは立ち上がり、脱いだついでだ、洗っちまおう、と髪を濡らす。
フィーネの手がそんなアーバインの腰のタオルを掴んで引っ張った。
「なっ、何すんだっ!フィーネっ!!!」
「?・・・流してあげるの。」
「!!!!!!!!!ぃオレの事はいいっ、頼むから早く出てってくれ!」
小さな「ぃ」が、こっ恥ずかしいアーバイン。
慌てて戸を開け、タオル片手のフィーネの背中を強引に押しやる。
髪から水滴をしたたらせ、腰に巻いていたはずのタオルも取られたアーバインの焦りは、そりゃあもう究極。
「?どうして?洗ってもらったからお礼に・・・。」
と乳白色の肌も露わにフィーネ、アーバインを見上げる。ああ、もうその胸が・・・・何ていうんだ・・・・。
眩暈。

「れ、礼なんていい!何でもいいから早く服を着ろぉ!!!」
「?」

フィーネの視線がふと一点を見つめているのに気がついてアーバインが下を向く。
大体ね、モモの付け根辺り。
「アーバイン。ソレ・・・、さっきと形がちが」
「フィーネーーーっ!!!!!!!」
いい加減にしてくれと言う絶叫が宿屋にこだまする。
ムンベイとバンは幸か不幸かまだ帰らない。
この後の展開を考えると頭が痛い。それよりも「おさまり」はつくのか?
何のおさまりか、ソレは言えない。
アーバインの苦悩は続く・・・・・・・。